※この記事の内容は事業主様より掲載許可を取っています。
今日はある事業者様よりドリップコーヒー用のブレンド開発のご依頼を受けまして、
『いちごの香りのふわっとした柔らかさとショコラの甘さがあるブレンドをつくりたい!』
とのオーダーを頂き試行錯誤した時のお話です。
コーヒー豆はシングルオリジンという様々な国の農園単体のものがあり、元々のポテンシャルに様々なフルーツや花、食べ物の香りをもっています。
焙煎度合いやブレンドの配合を組み合わせる事によって香料などを添加しなくても様々なフルーツや花、お菓子などをより強く彷彿させるような複雑な香りを無限大に表現することもできます。
シェフが様々な食材を選んで組み合わせて調理をするように、バリスタとしてコーヒーを淹れるだけではなく、様々なコーヒー豆を使ってブレンドコーヒーの開発もさせていただいています。
ブレンドとテイスティングの繰り返し検証 #1
1回目 柑橘系のブレンドに
まず、ベリー系のポテンシャルの豆を使えばいけるのでは?と浅煎りのエチオピアナチュラルの豆と深煎りのブラジルをベースに甘さと軽さを加えるパプアニューギニアの中煎りをブレンドしてみました。
ベリーというよりは柑橘を感じる甘めのショコラブレンドっぽいけど、ふんわり感やベリー感は弱く、いちごでは無いわね
2回目~4回目 ベリーはいずこへ
ベリーの香りが消えてしまったので、もっとベリーと酸が強くしたらどうだろうか?と浅煎りのケニアナチュラル、ウォッシュドでそれぞれ1回目と同じ割合でエチオピアだけを変更してブレンド。
いちご…全くない。
いちごどころかベリー感もどんどん消えているような現象が起き、その後何度か検証するも、見つかりません。
別のアプローチを模索
いちごの香りについて調べる
いちごってもしかしてかなりの繊細さんなのでは?!
と香りについて調べてみることにしました。
いちごの香りついての論文を発見し、読み漁りわかった事は以下
“いちごとパイナップルの香気成分は共通のものが多く,その組成比が異なるだけ両者の香気寄与成分は,果実香を有する2-メチルプロピオン酸およびブタン酸のエステルと,カラメル様,パイナップル様の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン(フラネオール)が共通している.それらにヘキセナールやメチルブタノエート,2,3-ブタンジオンが加わることによりいちごの香りが形成され,パイナップルの場合は,ウンデカトリエンのような特徴香成分やダマセノンが加わることによりパイナップル香気が形成される.”
果実の香気分析GCにおいかぎ分析と官能評価 時友 裕紀子 山梨大学大学院教育学研究科さんより引用
つまり、
主にフラネオールという香気成分がいちごの香りとされてパイナップルの香りと紙一重になる!ということが分かりました。
簡単にいうと…
フラネオールにきゅうりやキャベツの野菜の香り=いちご
フラネオールにバラ、コーヒーの香り=パイナップル
しかし、コーヒーの香りを足すとパイナップルの香りになる…ということはもはやブレンドでいちごとショコラの香りを表現するのは不可能なのでは?という疑惑が浮上してしまいました。
ただ香りについて化学的な観点で考えが深まったので、最初の頃よりは方向性がぐんと見えてきました!
ブレンドとテイスティングの繰り返し検証 #2
5回目 香りのかけ算
野菜っぽい、草っぽいニュアンスがあるホンジュラスとベリー系のエチオピアナチュラルを合わせ、いちごを再現、要望のショコラっぽい香りをということでブラジルとコロンビアを深煎りでアクセントにすると今までで一番近づきました!
6回目-8回目 コーヒー沼
あとは微調整というところまで来てからが長いというのはあるあるかもしれませんが、まさに、”ここまできたならもっとイメージに近づけたい!”という欲が出てきて…
配合比率を変えてみたり、同じ豆の焙煎度が違うものを試してみたりしたもののいまひとつ納得のいくものが出来ませんでした。
これが俗にいう”コーヒー沼”っていうのかしら。
ブレンドとテイスティングの繰り返し検証 #3
9回目 白紙に戻す
一度もっとシンプルに考えてみよう!と今までの構成を全て無にして、野菜っぽくて苦味があるような豆etcと記憶を辿り…遂にありました『○○○○』
この豆をブレンドに混ぜるなんて、しかも浅煎りと合わせるだなんて中々思いつかなかったのではないでしょうか。
通常ならしないのですが、思い切ってやってみたところ…
Wow!圧倒的なストロベリィ!しかもちょっぴりビター
遂にいちごとショコラが共存できそうなブレンドをみつけました!
10〜数回目 完成
浅煎り豆、深煎り豆の割合を少しずつ変えていき、最終形はなんと浅煎りの方がベースで着地。
その後焙煎度合いなどを微調整し、ついに要望通りのいちごのふんわりとした香り、そしてショコラを感じるブレンドを完成する事ができました!
あとがき・アフターブレンドについて
コーヒーは香気成分がなんと800種類もあるといわれています。
香りの組み合わせ、ブレンドにするともう無限の可能性があるといっては過言ではないかもしれません。
ブレンド作製の時は作りたい香りのイメージを決め、化学的に香りについて考えてつくるとより再現性が高く出来て面白いなと思いました。
焙煎は焙煎士に任せ、最大限にそのコーヒー豆がもつ特徴を引き出していただいた後に、焙煎豆をブレンドする「アフターブレンド」と呼ばれる手法でブレンドコーヒーをよくつくっています。
ブレンドコーヒーをつくる際に生豆の状態でミックスしてから焙煎する「プレミックス」というやり方もありますが、豆それぞれ火の通り方が違うのでコストもかかり大変ですが、基本的にはアフターミックスでつくる方が好ましいと思っており今回もアフターブレンドでつくらせていただきました。
Baristalではご依頼に応じたブレンド、商品開発なども行なっております。
ご要望やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせ下さいね。
最後まで読んでいただきグラッチェ&アモーレです。
それではまた次回CiaoCiao~♥